（序）神のお心である福音を100％受け入れる
＊ 前回にも学びましたが、神は、ご自身の4段階に分けて働きかけられた愛を完成させることが、人間にとって最高の祝福となるとお考えになられ、働き続けておられるということでした。
＊ 罪からの救い、聖霊の内住、キリストのからだなる教会、兄弟愛、これらはすべて神の愛から出た働きかけでありますから、この内、何一つ欠けても愛は完成しないのです。もし欠けているならば、神はその人の内におられ、その人は神の内にいるという、驚くべき恵みの一体信仰は成立しないと語ってきたのです。
＊ そして、神の愛による働きかけが完成することを示している福音は、神の霊から出た正しい福音であるが、神の愛による働きかけが完成しない、どこかに欠けがある福音は、偽りの霊から出たにせ福音であり、何の力もなく、何の意味もないものだと言ってきたのです。
＊ 神の愛による働きかけが完成しない福音の方は、少し不十分な福音だという程度の指摘をしている軽い言い方ではなく、神の愛による働きかけが完成しない福音は、反キリストの霊が作り出したものであり、全くの偽物、惑わしの福音に過ぎないと断定してきたのです。
＊ これは、ヨハネが人間的な視点から、正邪を判断しようとしているのではなく、神が、人間をどのような罪の生き方から回復させ、どのような姿を現す者にさせようと、愛を持って働いて下さっているかという、神の御思いの視点から正邪を判断しようとしていることが分かります。
＊ すなわち、神のお心である福音を100％受け入れてこそ、始めて正しい福音だと言えますが、その内の一部分を否定しただけでも、反キリストの霊から出た福音、サタンの考えでしかないと言うのです。ヨハネにとっては、神のお心である福音100％以外は、すべてサタンによる死の毒の含んだ教えでしかないと言ってきたのです。
＊ どうしてここまで強い言い方をするのでしょうか。このような考え方は、世の知恵ではなかなか受け入れることのできないものです。しかし、福音とは、私たちがどう感じ、どう考えるかではなく、神がどのようにして救い、どのように完成して下さるかという、神のお考えにかかっているものだからです。
＊ この当時の教会において、兄弟愛を大事なものと考えず、自分の思いで大事だと思える内容だけを受け入れていた人たちがいて、そのような考えの方が楽なので、それに引っ張られていた人たちもいたことが分かります。
＊ ヨハネは、そのような考え方が、神のお心からどれほどかけ離れた信仰であり、神を悲しませているかを明らかにする必要があると感じていたのです。
＊ このことは、今日においても同様です。神のお心である福音を100％受け入れることをせず、その一部を受け入れやすいように，楽なように、時代に合うように変形させることによって、反キリストの霊から出た福音にしてしまっている信仰者も多いのです。
＊ ヨハネが発しているこの警告を無視せず、私たちも、神のお心である福音をそのまま受け取っていく者でありたいと思うのです。
（１）神が人間に求めておられる内容としての福音
＊ それでは、神のお心として示された福音が、どのようなものだとこの所で示されているのか、考えていきましょう。福音とは、神が人間をどのようにしたいと考えておられるかという神のお心のことです。
＊ 神が、人間に求めておられる姿、すなわち、罪人として落ちていた私たち人間を、どのような者に回復させたいと願って福音を示して下さったのかと言うことですが、ヨハネはそれを、17節で理解し難い表現で語っています。
＊ 「私たちもこの世にあって彼のように生きている」と。これは、単なるキリストのまねをして生きているという意味ではありません。これを分かりやすい表現で言い換えるならば、「この世においてキリストが生きて歩まれたように、私たちも生きている」と言っているのです。
＊ キリストが生きて歩まれたようにとは、世において歩むが、世に囚われず、世を退けず、世にいる人々を愛しながら、世に毒されず、世に歩調を合わせず、神を見上げ、神と共に生き、神の代理人として歩まれたように、私たちも生きることだと言うのです。
＊ 人間は、罪を犯した存在になってからは、自己中心の狭い心の人間に成り下がってしまい、神の目から見て、救いようのないガラクタ人間になってしまっており、言わば、修理不能、回復不能な廃棄処分するしかない者になっていたのです。
＊ しかし、驚くべき知恵と能力を持っておられる神様は、そのような、どうしようもない人間に成り下がっていることをご存知の上で、何としてでも回復させ、ご自身の祝福を受け継ぐ者にしたいと願われて、４つの愛による働きかけである福音をお示しになったのです。
＊ けれども、それはそう簡単なものではなく、神による回復のみわざも、人間の側が生涯かけて、完全な回復を求めて向かい続ける必要があるという、条件つきのものであったのです。
＊ すなわち、救われたと言っても、強い肉の思いを引きずったままであり、サタンに振り回されやすく、心変わりしやすく、頼りなく，しっかりと立てない、いつでも元に逆戻りしようとするような人間のままという状態で、信仰を持って歩んでいるのです。
＊ そんな、弱い、頼りない信仰人間に対して、あなたがたは、キリストがこの世において生きて歩まれたように、生きるようになっているとヨハネは告白しています。
＊ いつまでも、弱さを感じ続けている私たち信仰者にとって、このようなヨハネの信仰分析は、なかなかそのまま受け入れることはできません。
＊ キリストのように生きる者となるように神が求められ、４つの愛の働きかけを持って、それを完成させて下さったと完了形で言い切っているのは、単なる理想主義ではないだろうかとさえ思わされるのです。
＊ 罪を犯す前に神がお造りになった人間には、キリストのように生きて歩むことができる存在としての素養が備わっていました。罪を犯した後も、その素養が完全になくなったわけではなく、神が回復させて下さりさえすれば、キリストのように生きる、素晴らしい人間性が回復されると見て下さっているのです。
＊ そのための回復のみわざが、神の愛による４つの働きかけであって、これらが完成することによって、それが可能になると考えておられたのです。しかし地上にあって、そんなことが本当に可能だと言えるのか、考えて見なければなりません。
（２）すでに完成された神の愛による働きかけ
＊ 以前は罪人であった者が、救われることによって、キリストが歩まれたように生きることができる者に、神が回復して下さった。だから信仰者はキリストのように、この世において生きている。それは神の愛の働きかけが完成しているからだと言ってきたのです。これは一体どういうことでしょうか。
＊ これから徐々に完成されていくと言わずに、完了形で，すでに完成されたと言っています。第１の、罪からの救い、第２の、聖霊の内住については、神の側で完全に果たして下さったということは理解しやすいでしょう。
＊ しかし第３の、キリストのからだなる教会、第４の、兄弟愛においては、まだ働き続けておられる途上であり、信仰者も、その信仰に立ち続け、信仰的努力を続けていかなければならないものです。
＊ それなのに、ここではどうして神の愛の働きかけはすでに完成していると言い、その結果、信仰者はキリストのように歩むようになっていると言っているのでしょうか。
＊ これは、神の側における愛の働きかけのことを言っているのですから、神の側においては、すでにそれを完成させるための働きかけが終わっており、すでに完成していると言っているのです。
＊ それが実行されるためには、信仰者の側が、その福音をそのまま受け入れ、信仰によって確信し、信仰的努力を現していくことが必要となってくるのですから、まだ途上にある事柄だと言うべきでしょう。
＊ 神の側で完成していても、人間の側ではまだこれからなのですから、キリストのように歩むことはまだできないと思うのに、すでにキリストのように歩んでいると言い切っているのです。これはどうしてでしょうか。
＊ 神の側で完成しているという事実を受け取っている信仰に立つならば、神の愛による働きかけが、自分の内にまだ確立していなくても、神の目から見て完成した者、キリストのように歩んでいる者と見て下さっていると言うのです。
＊ 人間の目から見て、キリストのようにきよい生き方をしているとは見えなくても、神の側による愛の働きかけはすでに完了しているのですから、キリストのようにきよい生き方をしている者として、神の目に映っていると言うのです。
（３）4つの働きかけがどのように完成されたか
＊ それでは、どのように愛の働きかけが完成していると言われているのか、4つの働きかけを一つ一つ見ていくことにしましょう。
＊ 第1は、罪からの救いですが、キリストが十字架上で罪のあがないのための血を流して下さったことによって、罪の赦しのみわざは完全に成し遂げられました。
＊ それ故、信仰者の側は、あがないのみわざを信じるだけで神から義と認められ、罪から解放され、神の子と認められ、罪からの救いが完成するのです。
＊ 救われてもなお人間の内に残っている罪があって邪魔をするので、きよめられていく必要があるのですが、神の目には、キリストのあがないのゆえに、永遠に罪が処理された者と見て頂いているのです。
＊ 第2は、聖霊の内住ですが、キリストを信じ、神の前に信仰告白をした者は、即座に御霊が宿って下さり、御霊の働きかけを頂きながら、信仰生活をしていくようにされたのです。
＊ 神の目には、ご自身の思いをすべて知っている唯一の存在である御霊が、信仰者の内にあって、神との架け橋となり、神の御心に沿った生き方をするようになったと見て下さっているのです。
＊ しかし、現実には、御霊の導きよりも、強い自分の思いに振り回されたりするのですが、聖霊が私を導いて下さるようにと自分を明け渡していくならば、神のお心に沿った生き方へと整えられていくのです。
＊ 完全な御霊主導の生き方には程遠くても、御霊が内住して下さっているという事実は、すでに、神のお心に沿った生き方をする者に完成して頂いていると言えるのです。
＊ 第3は、キリストのからだなる教会ですが、キリストを信じた者を、時空を超えた一つに結び合わせ、かしらなる司令塔キリストの下で、御心のまま活動するキリストのからだの各部分としてつながる者にして下さったのです。
＊ 時空を超えた一つの結びつきというのは、人間の理解を超えたものですから、その実体をつかむことは不可能ですが、神の側においては、信仰を持った時点で一つに結び合わせ、キリストの一つのからだと見て下さっているのです。（ローマ12：5）
＊ これは、人間的に理解できなくても、神の側においてはすでに完成したみわざなのです。信仰者にとっては、一つに結び合わされているキリストのからだとしての信仰に立ち続けることが大事なのです。
＊ 第4は、兄弟愛ですが、これは、神がまず私たちに愛を示して下さり、その愛の素晴らしさに圧倒されることにより、神は、私たちの内に愛の発生源を注入して下さり、兄弟を愛するように導かれるので、愛の働きかけは完成したと言えるのです。
＊ 現実には、まだ十分な兄弟愛を示すことができなくても、愛の発生源が注入されているのですから、兄弟愛を重んじ、大事なものとして向き合っていきさえするならば、いつか実を結ぶようになると信じることができるのです。
＊ これらの、神の愛による4つの働きかけは、すべて神の側において、すでに完成しているのですから、それを信じて受けとめているなら、現実にはまだ程遠い自分の姿を見せられても、神の側の事実が、私たち人間の側における事実となっていくように、私たちの信仰を育てつつ、神が導いて下さると信じることができるのです。
（結び）終わりの日における実質的な完成の保証
＊ ヨハネは、神の愛による働きかけが完成しているので、この世の中において、私たちはキリストが生きておられたように、私たちも生きることができるようにされたと言いました。原文では、「この世にあって、彼があり続けられたように、私たちもあり続ける」と記されています。
＊ キリストと同じ生き方ができるという表現は、あまりにも自分のくだらない姿や不信仰な姿、主に信頼し切れない姿などがよく見えているので、そのように言うことは傲慢に思えて、とても言うことなどできません。
＊ それではヨハネは、単に理想的なクリスチャン像を述べているだけなのでしょうか。そうではありません。ヨハネが目を向けていたのは、神の愛による働きかけについてであって、神の側においては、それはすでに完成されたことなので、罪人の救いと回復はすでに実現した。だから信仰者は、この世にあってキリストのように生きる者となったと言い切っているのです。
＊ しかし、そう言われても、現実とのギャップがあまりにも大き過ぎて、その言葉をそのまま受けとめることはなかなかできません。キリストのように、聖く、汚れなく、罪に振り回されず、サタンに負けず、父なる神に絶対信頼を表し、自分を捨てて、主のしもべとしての生き方を貫き通すことができているとは到底思えないのです。
＊ このギャップを、私たちは正しく埋めることができているでしょうか。確かに、人間の目、自分の目から見て、私の中で、神の愛による働きかけが完了し、完成されて、きよくなり、何の問題もない人間に回復して頂いたとは決して言えません。
＊ ヨハネが判断した材料は、そのような人間の感覚、自分の感覚ではなく、人間が信仰を持った事によって、その時点で、すでになされた神の愛による働きかけが実現することになり、完成したと言われていることを判断材料にしたのです。
＊ 現在、見た目で完成しているかどうかが大事なのではなく、神の愛による働きかけが完成したということは、終わりの日に完成すると言われているので、信仰者は、終わりの日に向かって生かされる生き方に突入したことになるのです。
＊ 終わりの日に、実質的にも完成することが保証されているので、その事実によって、今は、実質的に不十分であっても、神の目には完成している者と見て頂いていると確信しているので、キリストのように生きていると大胆に告白できるのです。
＊ 終わりの日において、イエス様は、「わたしの父の祝福された人たちよ。さあ、世の初めからあなたがたのために用意されている御国を受け継ぎなさい」と言って下さるのです。（マタイ25：34）
＊ すなわち、終わりの日に、神の目にも、実質的にも完成された者になるとの確信に生きることが、この世にあってキリストのように生きることなのです。
＊ 今は完成された者でなくても、何ら問題ではなく、完成が保証されているとの確信に生きているから、時間を超越してキリストのように生きていると言えるのです。
＊ だからヨハネは、さばきの日に確信を持って立つことができると言ったのです。さばきの日に神の前に立つ時、神の愛による4つの働きかけは、実質的にも完成させて下さるので、安心して確信して立つことができると言っているのです。
＊ 今の現実に目を向け過ぎると、人は決してキリストのように生きることはできません。それは、救われたと言っても、私たち信仰者は、汚れた思いを持ち続けており、未熟な信仰しかない者ですから、信仰的努力によって、少しでもキリストのように生きる歩みに近づいていく必要があるのですが、不十分なままでも神の目から見れば、すでに終わりの日の完成が保証されているので、合格点を頂いているのです。
＊ 神の愛による働きかけ、すなわち、罪からの救い、聖霊の内住、キリストのからだなる教会、兄弟愛が私の上に完成していると信じて生きることが、キリストのように生きていることなのです。